「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第132話

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最終章 強さなんて意味ないよ編
<NPCの思いが重い>



 レストランでこの世界での最高レベルの昼食を堪能した後、私たちは大使館とは別にもう一つ購入したイーノックカウの館に向かった。

 そこは先日まで紅薔薇隊のユミ・フォーチュンを責任者に、その元でイングウェンザー城から派遣した料理人たちがこのイーノックカウのレストランや屋台の料理や接客、それに相場を調べる拠点となっていたんだけど、ついに私が決心をしたと言う事で館そのものを店に改装する事になっているの。

 私たちが乗る馬車が貴族や大商会が集まる区画の中央広場近くにあるその屋敷の近くまでたどり着くと、その門の前で一人の小柄なメイドが佇んでいるのが見える。
 そこで出迎えてくれたのは少し前までまるん付きのメイドだった、紅薔薇隊のユミ・フォーチュンだった。

 館前の鉄門はこの馬車が近づいてくるのを確認した彼女の手によってすでに開け放たれているからそのまま門を通り過ぎる事もできたんだけど、折角出迎えてもらったので私たちは館前ではなく門の前に馬車を止めて、そこで降りる事にする。

 馬車が止まり、ステップを用意してもらってギャリソンにエスコートしてもらいながら降り立つと、ユミちゃんは私たちに歩み寄り、一礼して出迎えの挨拶をしてくれた。

「アルフィン様、まるん様。お待ちしておりました」

「あらユミちゃん、お出迎えありがとう。でも、何時から待っていたの? 大体の時間を連絡してはあったけど、私たちが何時来るかなんて解らなかったのに」

「いえ、まるん様よりこれから向かうと<メッセージ/伝言>を頂きましたので、出迎えの為に門の前に到着したのはつい先ほどでございます。」

 その言葉を受けてまるんの方へと目を向けると、彼女はしてやったりと言うかのような満面の笑顔でVサインをしていた。
 なるほど、専属は外れたけど関係は続いているって事ね。

「そうなの。まるんちゃん、気が効くわね」

「ふふふっ、そうでしょう。連絡は必要だって思ったからね」

 まるんは得意満面にそう言ったの。
 そしてその後、きちっと爆弾も落としてくれたわ

「あるさんったら先触れ、出さないんだもん。あのままだったら、門を自分たちで開けないといけないでしょ?」

「あっそっか。面目ない」

 言われてみればその通りだ。
 まぁギャリソン辺りは館が見えてきた時点でヨウコたちを少し先行させて門を開けさせるつもりだったんだろうけど、ここはイーノックカウでも上流階級の人たちが生活している場所なんだから、その2人のどちらかを先触れとして出すべきだったかも。
 普通貴族や王族ならそうするだろうからなぁ、ちょっと反省。

 とまぁ私はこの程度の軽い反省だったけど、まるんの言葉を聞いて物凄くショックを受けている者も居る。
 ギャリソン、ヨウコ、サチコ、トウコの4人だ。
 他家への訪問じゃなく自分たちの別宅へ行くだけなんだから別にそこまで気にする事でも無いし、まるん自身も軽い気持ちで私にそう言っただけなんだろうけど、それを聞いたこの4人はまるでこの世の終わりのような顔をしてるのよね。

「4人とも、どうしたの? そんな顔して」

 まぁ理由は解ってるけど、そのままにしておく訳にも行かないからとりあえずそう聞いてみる。
 すると4人を代表してギャリソンが暗い顔をしながら私に向かって頭を下げて、辛そうに口を開いたのよ。

「私どもが不甲斐ないばかりにアルフィン様がまるん様より叱責を受ける事になってしまい、大変申し訳なく思います。本来なら死してお詫びする所ですが、アルフィン様より頂いた職務を放棄するわけにも行かず。罰は城に帰った後にお受けしますので、ここはそのままお仕えする事を御許しいただきたく」

 重い! 重すぎる! ってか、何であの程度の事で私がまるんに叱責された事になるのよ。
 確かに申し訳ないって一応謝ったみたいにはなってるけど、あれもまるんの言葉に軽く乗った程度のことだし、ただの会話でしょ。

 まったく、この子たち、たまに物事を必要以上に重大に考える事があるよねぇ。
 今回の事なんてたいした事ない失敗で、ああ次からは気をつけなくちゃいけないわねぇ程度に考えればいいだけの事なのに、それが何故死んでお詫びするまで行っちゃうかなぁ。

 そしてそのギャリソンの言葉を受けて大慌てなのが、まるん。
 まさか自分が軽い気持ちで言った言葉がギャリソンたちをここまで追い詰めるなんて思っても居なかっただろうから、軽いパニックになっちゃってるのよね。

 とまぁ、こんな状況を放っておく訳には行かないので、さくっと対処しておく事にする。

「てい!」

 ぽすっ。

「なっ!?」

 下げていた後頭部にいきなりチョップを落とされて、驚きのあまり顔をあげて目を白黒させるギャリソン。
 しかしそんな彼の反応などほったらかし。

「てい! てい! てい! てい!」

 ぽす、ぽす、ぽす、ぽす。

 私は続けざまにまるん、ヨウコ、サチコ、トウコの4人にもチョップの雨を降らして行った。
 まぁチョップと言ってもツッコミのようなもので何にも痛くないだろうけど、私から落とされたと言う事実が痛かったのか、全員が落とされた頭を両手で押さえて首をちょっとすくめてる。
 サチコにいたってはちょっと涙目になってるくらいだし、この子たちには思いの他効いたみたいね。

 そんな様子を見渡して、私は満足しながら両手を腰に当てて言い放つ。

「ギャリソン、なぜこの程度の事で死んでお詫びするなんて話になるの? あなたがそんな事を言い出すから、まるんちゃんがパニックになってしまったじゃない」

 そう指摘されて自分の失態に気付き、身を硬くするギャリソン。

「申し訳ありません。短慮が過ぎました」

 ああ、動転しててそこまで気が回らなかったって表情ね。
 うん、そこでしっかりと反省してなさい。

 続いて、

「それにヨウコ、サチコ、トウコ、あなたたちも同じよ。あなたたちがそんな感じで真に受けてたら、まるんちゃんがこれから軽い気持ちで冗談を言おうとしても、その姿が頭をよぎって我慢する事になるでしょ」

 そう、まるんも別に本気であんな事を言ったわけじゃなく、ちょっとした冗談くらいのつもりだったはずなのよね。
 なのにそれを真に受けて青い顔をされたんじゃぁ、まるんだって驚くわよ。

「「「申し訳ありませんでした」」」

「特にトウコはまるんちゃんの専属メイドになってるんだから、その辺りはしっかりしてもらわないとね。いつもいつも私がフォローできるわけじゃないんだから」

「はい、以後気をつけます」

 この辺りはしっかりと釘を刺しておかないと。
 まるんとあいしゃは・・・なんと言うか天真爛漫すぎる所があるからなぁ。
 その発言に一々こんな感じで反応されたりしたら、まるん自身が大変だろうしね。

「そしてまるん、あの程度でパニックにならない。ギャリソンたちだって、ちゃんと話せば解るんだから。それに私が自害なんて許すわけないでしょ? だからそこまであわてないの」

「ごめんなさい」

「うん、解れば宜しい」

 みんなきちんと解ってくれたようなので、この話はこれでおしまい。
 そう私は思ってたんだけど、

「あのぉ〜、アルフィン様」

 突然後ろから声をかけられたのよね。
 その声の主はカルロッテさん。

「カルロッテさん、どうかした?」

「いえ、いつものアルフィン様らしくて私としてはいいと思うのですが、ここは屋敷の外。差し出がましいようですが門の前ですから、対外的な口調でお叱りになられたほうが宜しいのではないかと思いまして」

「あっ!」

 そう言えばそうだった。
 よくある事だからつい場所の事なんてまるで考えずに、いつもの口調で叱っちゃったよ。
 おまけにチョップまでしちゃったし。

 ここ、中央広場が近いから結構人通りも多いのよねぇ。
 またやっちゃったかな? そう思ってちょっと凹みかかったんだけど、そこに救世主が現れた。

「大丈夫です、アルフィン様。この館の扉周辺と外門周辺には外部に聴かれては困る内容を急いで伝えなければならない場合を想定して、機密保持のため常に遮音するマジックアイテムを使用しております。ですから、先ほどまでのアルフィン様の発言は、外を行きかう者たちには何も聞こえては居りません」

 そう言ってくれたのは紅薔薇隊の中で唯一怒られていなかったユミちゃん。
 彼女にはこの館を任せていたんだけど、そんな仕掛けをしてたのね。
 でも確かに緊急な事とかがあれば遮音の魔法をかける時間も惜しいだろうから、ここのように人通りの多い場所では予めそのようなマジックアイテムを設置しておいたほうがいいと言うのは道理よね。

「それにそのお姿も後ろに大きな馬車がございますから、注視して此方を探っている者でも居なけれ見られる事もなかったでしょう。そしてそのような監視者が居ない事は、この館を任されている私が保証いたします」

 そして監視者に対する対処もばっちりと言う自信に溢れたそこの言葉に、私はちょっと頼もしさを感じたのよね。
 そんなユミちゃんを前に小さくなる他の紅薔薇隊の3人。
 ああ、別にそんな風になる必要はないんだけどなぁ。

 これはユミちゃんが普段こなしている役割を報告しているって言うだけの事で、彼女たちも普段はきちんと役割をこなしているんだから別に彼女が特別優秀だという事でも無いんだから。

 自分の失敗はすっかり忘れて、そんな事を思いながらNPCたちを眺めるアルフィンだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 今回は時間の関係上いつもより短いと言う事で、どたばた劇をお送りしました。

 アインズ様しか居ないナザリックではありえないけど、もし別のメンバーがいっしょに転移していて同じ様な事が起こったとしたらもっと酷い事になるかもしれないですね。
 なにせワールドアイテムで操られていたのに、シャルティアがアインズに刃を向けたと言う理由であんな風になるんですから。

 誰かがアインズ様の失敗を指摘して、それを聞いた守護者が死んでお詫びすると言い出す。
 その守護者を必死に思い留まらせようとするアインズ様!

 お前が死んだから生き返らせるのにユグドラシル金貨5億枚消費する事になるだろうが!(心の声)

 いかん、ギャグにしかならないやw

 さて来週ですが、週末から週明けにかけていないので、すみませんがお休みさせていただきます。
 また次の週も土日出張が入っているので、もしかすると月曜日更新になるかもしれません。
 話し自体は休み中に書くつもりなので出張の帰りが余程遅くならない限りは8月19日にアップするつもりですが、もし遅れた場合は御許しください。


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